Laravelの生みの親 Taylor Otwell 氏や、コアチームの Nuno Maduro 氏。そして国内コミュニティの第一線で活躍する登壇者の皆さん。正直、「この顔ぶれが一度に集まるの?」と二度見してしまうような、豪華なカンファレンスでした。
最新技術のキャッチアップが目的でしたが、フタを開けてみると、語られていたのはもっと根っこの話でした。
> AIがコードを書いてくれる時代に、プログラマは何を大切にすればいいのか。
2日間、いろんな登壇者が、いろんな切り口で、この問いに答えようとしていた。そんな印象が強く残っています。
この記事では、特に心に残ったセッションを振り返りながら、現地で感じた熱量をそのままお届けします。
キーワードは3つ。「Strict(厳格さ)」「Laravel Way」「職人技」 です。
項目 | 内容 |
|---|---|
イベント名 | Laravel Live Japan 2026 |
開催日 | 2026年5月26日(火)〜27日(水) |
公式サイト |
---
DAY 1(5月26日)
① 厳格さは、AIへの「思いやり」だった|Strict AI Engineering(Nuno Maduro 氏)
いきなり考え方をひっくり返されたセッションでした。
静的解析やLinterで「厳格なルール」を敷くこと。これって、ともすると「人間の自由を縛る、めんどくさいもの」に見えがちですよね。でも Nuno 氏のメッセージはこうでした。
AIと開発する時代だからこそ、厳格なルールには意味がある。 なぜなら、そのルールは自分たちのコードだけでなく、**AIが生成するコードの品質まで底上げしてくれる**から。
ライブデモで紹介された「武器」たちが具体的で、すぐ試したくなるものばかりでした。
Model::shouldBeStrict()でN+1問題などを早期に検知するDB::prohibitDestructiveCommands()で破壊的なコマンドを未然に防ぐdeclare(strict_types=1)は必ず設定する- 「型はAIの最良の友」。PHPStanで静的解析を効かせる(型がしっかりしていればPHPDocも要らない)
- Modelには
@property-read、Controllerはfinal readonly/ Form Request を徹底 - テストパイプラインこそ、コードとAIの「ガードレール」になる
composer scriptsにlintコマンドを集約(rector / pint --parallel / npm run lint)pest --parallel --coverage --exactly=100.0。AI生成コードにはカバレッジ100%を要求する
締めの言葉、「STRICT TYPING, STRICT DEFAULTS, STRICT PATTERNS, STRONG TESTING PIPELINE」がとにかく象徴的でした。これらを丸ごとまとめた [Essentials](https://laravel-news.com/laravel-essentials) パッケージも紹介されています。
> 一番の学びは、「AIに気持ちよくコードを書いてもらうために、まず人間が制約を整える」という発想の転換。`shouldBeStrict()` あたりは、帰ってすぐ試したくなりました。
② モックとスタブ、ちゃんと使い分けられていますか?(うたまる あすみ 氏)
テストダブルの話です。なんとなく雰囲気で使い分けていたところを、きれいに言語化してもらえました。
- Mock = imitation and assertion(依存先を「正しく呼べているか」を検証する)
- Stub = imitation only(固定の値を返してくれる、ただの部品)
線引きの基準として刺さったのが、**"What you assert is what you care about"** という一言。検証したいものだけをassertする、というシンプルな原則です。モックを使いすぎると、ちょっとした変更ですぐ壊れる「Fragile Test(壊れやすいテスト)」になってしまう、という指摘にもうなずくばかりでした。
「テストとコード、どっちを先に書くか」問題については「半々」とのこと。ただ、**テストケース名だけ先に書く**と、仕様の見通しがぐっと良くなるそうです。
> 「assertしたいかどうか」でモックとスタブを分ける。この整理が本当に明快でした。「仕様が浮かび上がるテスト」、意識していきます。
③ 大規模リアルタイム分析の裏側|Inside Nightwatch(Jess Archer 氏)
Laravelの監視サービス「Nightwatch」が、どうやって大量のデータをさばいているのか。その舞台裏を覗けるセッションでした。
データはこんな流れで運ばれていきます。
> アプリ(Laravel → Nightwatch Agent)→ Ingest Endpoint → Kafka → ClickPipes → ClickHouse
主役は ClickHouse。列指向の分析用データベース(OSS)で、INSERTは追記方式。最新データを正しく取るには FINAL が必要、というクセも紹介されていました。Laravel向けドライバ [laravel-clickhouse](https://laravel-news.com/laravel-clickhouse-a-full-featured-clickhouse-driver-for-laravel) もあるそうです。
> OLTP(業務処理)とOLAP(分析)では、そもそもDBの構造からして別物。構造をちゃんと理解して、適切な絞り込みをかければ、検索はしっかり速くなる。当たり前のようで、改めて腹落ちした学びでした。
④ Laravelアプリは、なぜ壊れるのか?(武田 憲太郎 氏)
Railsに "Rails Way" があるように、実はLaravelにも明確な設計思想 "Laravel Way" があります。
ところが、それを体系的にまとめた本がない。だから誤解が広まってしまう。そんな問題提起から始まる、熱のこもったセッションでした。
- 生成AIは「生成」は得意。でも「捨てる・シンプルにする」のは苦手
php artisan make:*など、**Laravelが用意してくれた仕組みに素直に乗る**ことが大事- Laravel Wayに従えば、人にもAIにも扱いやすい構造になる。**"DO THINGS THE LARAVEL WAY."**
関連資料として、武田氏の「[私の愛したLaravel レールを超えたその先へ](https://speakerdeck.com/kentaroutakeda/si-noai-sitalaravel-reruwochao-etasonoxian-he)」も挙げられていました。
> ①の Nuno 氏の「Strict」とはまた違う角度からの「AI時代の心得」。Laravelの設計思想に対する自分の解像度を、もっと上げたいと感じました。
⑤ 仕事を「技芸」として捉え直す|AI時代の仕事技芸論(倉貫 義人 氏)
正直に言うと、2日間でいちばん心を動かされたのがこのセッションでした。
仕事を「労働」ではなく「技芸(Arts & Crafts)」として捉え直そう、という内容です。
- 内発的動機づけ:難易度と自分のスキルがちょうど釣り合うとき、人は「面白い」と感じる
- ソニックガーデン社が「あえて無くしたもの」:売上目標、管理職、評価制度、指示命令、オフィス、勤務時間……
- 大事にしているのはセルフマネジメント(外から圧をかけると、かえって品質も速度も落ちる)
- 徒弟制度のような育成のなかで、「良し悪しを見極める力」が育つ
- AIは、技術と芸術を結びつける道具。「AI+自分」なら、分業よりも一気通貫のほうが効率的
そして、いちばん刺さった言葉がこれです。
審美眼が真実。審美眼を持つプログラマが、これからの時代に求められる。
> プロダクトを「自分の作品」として捉える。そんな内発的な動機を、社内のあちこちに仕掛けていきたいと思いました。同時に、「他人の内発的動機にどう向き合うか」を考えるきっかけにもなりました。
⑥ Keynote: Laravel Updates(Taylor Otwell 氏)
そして真打ち、Laravelの生みの親によるキーノートです。エコシステム最新アップデートが一気に語られました。
- Laravel Boost:アプリを検査して、AI向けのinstructionファイルを生成。Laravel 11/12なら、Update SkillでアップデートをAIが自動実行
- AI SDK:AI機能を組み込むためのSDK。トークン消費量を
dumpで確認できたり、Sub Agentsに対応していたり - Laravel Cloud / Private Cloud:公式のPaaS(いわば "Laravel版 Vercel")。gitブランチと連動して動く(例:mainブランチ=本番)
> Laravelが「AIと開発すること」を大前提に、エコシステム全体を作り変えにいっている。それがひしひしと伝わるキーノートでした。まずは Laravel Boost、触ってみます。
---
DAY 2(5月27日)

⑦ PHPで、ネイティブアプリを|Laravel and the Future of Native Apps(Simon Hamp 氏、Shane Rosenthal 氏)
「PHP / Laravelで、モバイルネイティブアプリを作る」。聞いた瞬間「えっ、どうやって?」となる、Native PHP の紹介です。
PHPもLaravelも、もともとはWebにフォーカスした技術。モバイルから見れば、Webは「サーバー」という遠い別世界です。その距離を、[Native PHP](https://nativephp.com/) はこんな仕組みで一気に縮めます。
- PHP on the phone:ARM64向けにクロスコンパイルし、libphp.soをアプリに埋め込む
- The persistent Runtime:Laravelを一度だけ起動して、全リクエストをそこに流す
- The Bridge:PHPがOSと会話する仕組み(JSON in, JSON out)
- Native UI:Bladeがツリーを記述し、フラットバッファがネイティブ描画する
> Bladeでネイティブ UIが描けるなら、Laravelでモバイルアプリを作るハードルは一気に下がります。まずは簡単なアプリから、自分で作ってみたくなりました。
⑧ "モダンなモノリス"、再考|The Modern Monolith, Revisited(Joe Tannenbaum 氏)
Laravelとモダンフロント(React / Vue)を、Inertia.jsでシームレスにつなぐ。それをライブコーディングで見せてくれるセッションでした。
Laravel+Vue/Reactを素朴に組み合わせると、いろいろツラいことが起きます。CORS、認証の複雑さ、2つのコードベース、そしてAPI drift(フロントとバックの仕様のズレ)。
これを Inertia がまとめて解決してくれます。
- CORSなし
- Laravelの認証はそのまま使える
- コードベースは1つ(One Codebase)
- API driftが起きない(No API Drift)
「サーバこそが情報の源。それ以外はクライアント側に閉じ込める」という考え方が軸です。Inertia v3 + Laravel Wayfinder を使えば、PHPとTypeScriptが型安全につながった「フロントからバックエンドまでのモノリス」が実現できる、とのこと。
> 「モダンなモノリス」の魅力を、堂々と提示してくれる内容でした。シンプルな開発体験が好きな自分としては、新規開発でぜひ試したい構成です。
⑨ 技術的負債と、正しく付き合う(河瀨 翔吾 氏)
「技術的負債」という言葉、なんとなく使っていませんか。それを改めて言語化し、AI時代の付き合い方を考えるセッションでした。
技術的負債とは、ソフトウェアの「変更しやすさ」を下げてしまう、あらゆる要素のこと。散らかったコード、頼りないドキュメント、放置されたライブラリ、足りない自動テスト……どれも心当たりがあります。
そして、ここが大事なところ。
> AIはスピードを優先するぶん、品質低下を招くこともある。 作業量が読めず、かえって時間がかかることさえある。
じゃあどうコントロールするか。自動テスト→リファクタリングの流れ、依存ライブラリを選んだ理由を明確にしておくこと、コードの共同所有、背景をコメントに残すこと、腐敗防止層(ACL)……といった手段が紹介されました。**AIは負債を増やす要因にも、負債解消の強力なパートナーにもなる。要は「制御できるか」次第**、という諸刃の剣の話です。
> いちばん刺さったのは、「各イテレーションに、改善の余白をあらかじめ含めて、それを文化にする」という考え方。開発のなかに「品質向上やリファクタリングも当然含める」という発想、自社にも取り入れたいです。
⑩ Value Objectで、コードを"防弾"にする(Harris Raftopoulos 氏)
メールアドレスや金額を「ただの文字列」「ただの数値」として扱う。これ、扱うたびに障害の火種を増やしているかもしれません。
プリミティブ型に頼らず、Value Object で解決しよう、という提案です。
ポイントは、「型エラーがゼロでも、それだけでは足りない」という前提。Value Objectには、こんなルールがあります。
- イミュータブル:`final readonly` で、後から変えられないようにする
- 自己検証:値そのものがバリデーションを持っている
- 値による等価性:参照が違っても、中身が同じなら「等しい」とみなす
- ビジネス概念を含む:ドメイン固有のルールを、値の中に閉じ込める
「いつ作るべきか」の目安も明快でした。同じバリデーションが2箇所以上に出てきたとき。片方に紐づく値があるとき(緯度と経度のような)。書式や表記のルールがあるとき。逆に、値に対する短い固定処理だけなら enum で十分、という線引きも。
> プリミティブ依存は、プログラム上は問題なくても、知らないうちに問題を生む。DDDの導入はLaravelのディレクトリ構成に手を入れるので慎重に判断したいですが、「意味のある値」として実装する大切さは、しっかり復習しておきたいです。
⑪ 楽しかっただけのコミュニティが、今の私を作っていた(向平 琴未〔ことみん〕氏)
技術セッションとはまた違う、でも深く考えさせられる一本でした。
> すぐ近くにあるコミュニティも、当たり前に存在し続けるとは限らない。
カンファレンスに参加する意味そのものを、問い直す内容です。
- コミュニティは「自分の見ている世界が、広がる場所」
- 日本には特色あるPHPコミュニティがたくさんあって、大事にしているものもそれぞれ違う
- 自分から周りを巻き込んでいくことが、コミュニティが続いていくことにつながる
> たくさんの人がいてくれるから、コミュニティは今日も成り立っている。その感謝を持つことの大切さと、「学ばせてもらう側として、自分に何ができるか」を考えるきっかけになりました。
⑫ パネルディスカッション:Laravel × VoidZero|Web開発の未来を語る
2日間の締めくくり。いちばん印象に残ったのは、この一節です。
AIに頼りすぎると、AI Slop(AIによる質の低い生成物)を簡単に生み出してしまう。
本当に必要なのは「人が考え」「人が体験し」「人が調べて」「人が直す」こと。
そのなかでAIを使うのは、良いアイディアだ。
> 2日間ずっと語られてきた「AIと人間の役割分担」を、これ以上ないくらい端的に言い表してくれた言葉でした。
まとめ
Laravel Live Japan 2026 は、Laravel Cloud、AI SDK、Native PHP、Inertia v3……と、最新アップデートを一気にキャッチアップできた2日間でした。
でも、それ以上に大きかったのは、「AI時代に、エンジニアは何を大切にすべきか」 という本質的な問いに、じっくり向き合えたこと。
2日間を振り返って、自分なりに行き着いた答えはこうです。
プログラマが審美眼を持って、Strictな Laravel Way を実現する。
AIが書いてくれる時代だからこそ、人間が「設計」と「判断」の質を高める必要がある。会場全体から、そのメッセージを受け取った気がしています。
最後になりましたが、素晴らしい場を作ってくださった運営スタッフの皆さま、そして貴重な知見を惜しみなく共有してくださった登壇者の皆さまに、心からの感謝を。
日本での次回開催を楽しみにしながら、まずは目の前の業務に活かしていきます。